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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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昔から髪の毛は長かったのは幼い頃の自分がいつか髷を結わくためにそうしようと決めたことだったのかもしれないが、結局今までに一度も月代は剃らず髷も結わず、かと言ってざんぎりにすることもないまま髪の毛だけ黒ぐろと伸ばし続けている。月のない丑三ツなどには枕元に凪の海のように広がるのだがそれをごく稀に死神がかき混ぜに来る。枕元に膝を折って指先を髪の毛の中に落とし、ゆるゆると渦でも作るようにかき混ぜるその所作はなんとはなしに丹念に泡立てられたさみどりの抹茶を思い起こさせる。声もなく飽きもせずによくもまぁ、とは思わないでもないが、今すぐなにがしかを取立てにきたわけでもないのならと奇妙に鷹揚に構えたまま放ったらかしておくのが常だった。死神はそのうち来るとき同様音もなく帰っていく。そういうことのあった夜明けは、決まって桂の心を晴れやかにした。そういうことのあった夜明けは、決まって薔薇色に燃えるように美しいからかもしれない。その他には特に理由もない。理由もないから、来訪を望むこともない。
たんたんと無邪気な足音が廊下を離れていって、やがてぴしゃんと扉が閉じるその音はいつもほんの少しばかり部屋の空気を翳らせる。あの少女は桂の訪問を嫌がらない。手土産ついでに懐に隠した菓子を根こそぎ渡してやると上機嫌にころころと笑ったりもするのだ。よい饅頭よりも安い駄菓子を喜ぶ少女の健やかさには、なんとはなしにからだの奥の辺りが温まる心地がする。ソファにだらしなく寝そべってつま先でふくらはぎを掻きながら唸っている(便宜上)雇い主をどう思っているやら。昔から言うことではあるが類は友を呼んでしまうのが世の常でもある。顔にかぶせられた新聞紙の隙間から漏れる呼気に酒精を嗅いで、懐手のまま小さく洟を啜る。しかしこの男はいつも、桂が側に来ると自分から目を覚ますのだった。不思議なことに。やがて酒臭いからだがのそりと起きる。ばさ、と床で広がる新聞紙を踏みつけて立ち上がる銀時がいつもの冴えない天然パーマだったので、少し安心する。
怖いのは自分のたましいが冥土に遣られてしまうことではなく、自分とともに歩む輩が、かつての代償に取り上げられてしまうことだ。なんだよ土産とかねーのかよ、と、ようよう座り直した銀時がぶつくさとのたまう。土産はあったが全部食われた旨を伝えるとジャイアニズムがどうの今朝の朝食がどうのと一頻り苛立って、それで、とそこでまたやっと戻ってくる。なんか用。気づけば前のめりになった銀時の顔がさっきよりも近くて桂はなぜか少しだけ怯む。銀時。あん?いちいち閨まで来なくても構わない。はぁ?貴様が寂しいのなら俺が出向いてやる。だからいちいち来てくれなくても構わない。銀時は口を曲げたまま少し沈黙し、オメーなに言ってんだ、と心底ばかにしたように言った。その口から溢れる酒臭い呼気。怖いのは、喪うことだ。自分ひとつのたましいでは償いきれないことを成してしまった代償に、あのとき奪った以上のものを取り上げられてしまうことが、なにより怖いのだ。銀時は不機嫌な顔をする。徐にその手が伸びて、羽織の上から桂の二の腕を掴んだ。
月のない丑三ツには稀に死神が桂の髪の毛をかき混ぜにやって来る。桂はその間、黙って天井を眺めている。いっそ切ってしまおうかと思ったが、これと言って不満もないので結局はいつまでも冥土の川のように黒ぐろと長いままの髪の毛だ。いくら寂しいからとて、わざわざ閨まで来てくれなくても構わないのに、と思う。昔から口にはしないが寂しがりだったあれが、あの戦乱の日々の中、稀にこうやって桂の髪の毛をかき混ぜにやって来ていたことを、桂は知っている。言葉はない。視線を交わすこともない。分かち合うこともしなければ、置いてゆくこともしない。ただ言葉にならないものものを、ゆっくりとゆっくりと薄めるように。髪の毛に触れた指先から、ゆっくりとゆっくりと沈んでいくように。掴まれた二の腕がてのひらの形にあつい。こちらから出向くのは吝かではないと言うに、死神はなおも桂の髪の毛をかき混ぜに来る。薔薇色に燃えるように明けるに違いない夜は、これから永遠ほども続くように思えた。
死神は坂田銀時の顔をしている。







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