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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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窓の外をふわりと影が撫でたような気がして顔を上げる。指先まで疲労に使ってはいたが、意識は逆に冴えざえとして腹立たしいくらいだったので、崩れそうな膝に力を込めて立ち上がるとカーテンを払うように開ける。不気味なほどあおい月を背に、華奢な人影が浮かんでいた。逆光に沈んだ影の中に一対の目が神秘的に光っている。月よりもなお冷たい、銀河の奥に忘れ去られたふるい星のような。こんばんは。穏やかな声が耳に届くまで、息をするのも忘れていたことに気づいてイオははっと息を吸う。こ、こんばんは。その言葉を待っていたように、影はふわりとベランダの手すりに降り立つ。赤と黒の独特な衣服には見覚えがあった。あのときの。そう言うと彼はにこりと笑い、覚えていてくれて嬉しいよ、とやはり穏やかに答えた。夜風がイオのまつ毛に絡まり髪の毛を揺らすが、彼の服も髪の毛の一筋も揺らさないまま逃げるように吹きすぎていく。耳が痛いほどの静寂が舞い降りる。世界から切り離されてしまったような夜だ。
彼はしばらくイオを眺めると、やがて白い手を口元に当てた。きみもまた輝く者であることを失念していた。ルーグごとき悪魔の力で龍脈の力を引き出せるとは。今日の昼間のことを言われていることに気づき、イオはかすかに微笑む。きみは。彼は続ける。死に顔動画に救われたと思うかい。いいえ。それは即座に首を振る。死に顔動画で、わたしは本当に死んだんでしょう。だったらきっと死ぬはずだったんです。なぜ。イオはまばたきをする。それはわかりません。言いながら、そっと胸に手を当てる。方陣を貫き龍脈を解放した、それから、胸の奥に深い渦がある。なにもかもを引きずり込む、貪欲で、暗い、底なしの渦。その渦は(目には見えないが)博多で見たあの傷に似ている、ような気がする。虚ろなルーグに引きずられたことの後遺症かと思っていたが、そうでないことは、今ならよくわかる。彼の目に見つめられるとその渦が広く深くなるような気がする。彼の持つ得体の知れない引力に、まるで従順にひざまづくみたいに。
イオの柔らかな髪の毛に月の光がこぼれて滴るような夜だった。世界から切り離されて、ひとりとひとりで宇宙の果てを旅するような。わたしは、きっと死ぬ運命だったんです。そう言って開いた目の奥の光に、彼はわずかに眉を寄せる。(ルーグ?)イオは笑う。でも、生きてた。みんなが助けてくれた。だから。その一瞬、イオの目に引き込まれていたことに気づいて、彼はすうと目を細めた。きっとこの命は次に使うために残してくれたんです。わたし、「次は必ずみんなのために死にます」
イオの目の奥には悪魔の光が宿っていた。悪魔の供物にされて、人の魂をすり減らし、代わりに世界への自己犠牲をたっぷりと詰め込んで、それでも彼らのために生きようとしていた。彼らのために死ぬために。そのための戦いを待ち望むように。彼はそのとき初めて、死に顔動画というシステムを作ったことを後悔した。この人間はあのときに龍脈とともに殺しておくべきだった。そうしておくのが、この世界とこの7日間とすべての輝く者のためだった。きみはもうなにも考えなくていい。だから、それだけを言う。側に立ち、手を伸ばして頬でも撫でてやろうかとも思ったが、思っただけで、静かに笑った。イオの目はそんなことでは揺るがないほど強く冷たく輝いている。まるで宇宙の果てに置き去りにされたさびしいネビュラのように。冷たい夜だった。音のない、時間もない、孤独で孤独で泣き出しそうな夜だった。今この瞬間にも世界のどこかでは滅亡が進んでいるに違いないのに、そんなことすら忘れさせるような。この夜が雨ならば桜も流せぬに違いない。この夜が偶然なら
、輝く者など殺してしまっていたに違いない。








桜も流せぬ
アル・サダクとイオ。
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