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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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何人もの死によってすり減った階は、なお血を吸い足りないとでも言うように、どこまでも冷ややかにそこをゆく人間を跳ね返す。今となっては悪魔の姿がすっかり払われたナラクではあるが、中に足を踏み入れる度に背中にうそ寒さを感じる。いつまで経ってもそれが拭えないのは、最初に起きたことをまだ体が覚えているからかもしれない、と思った。何人もの人間とや悪魔と戦い、もうナラクの敵では歯が立たないくらいに成長したはずなのに。どこからか水の滴る音がする。記憶が暗闇の底から手招きをするような心持ちに、フリンは佩いた刀の位置をそっと正す。ひっ、と背後から引きつるような声がした。き、きみ、きみ。こんなに暗い場所を通るのかっ。恐怖と焦燥に裏返った声に、フリンはそっと肩越しに振り返る。フードを深くかぶったナバールが、体を細かく震わせながらこちらに向けるおびえきった眼差しにぶつかり、少しだけ肩の力が抜ける。
とある男に依頼された最後の仕事が、かつての友を護衛することだった。共にサムライになり、カジュアリティーズを見下していた友ナバールは、フリンたちも巻き込んだ騒動が発端になり、東のミカド国にはいられなくなったという。その騒動よりもはるかに大きな、国を左右する運命の渦中にあるワルターもヨナタンもイザボーも、恐らく彼のことは忘れ去っているだろう。フリンも、依頼を受けるまで彼のことを思い出すことはなかった。久しぶりに顔を合わせたナバールは、かつての虚勢も自信も失い、フリンたちのことももう覚えてはいなかった。かつて出自を鼻にかけ、驕りのままにフリンやワルターを蔑んだナバールは、今や周囲の目に怯え、なにもかも失くしたにも関わらず過去の栄光ばかりにすがっていた。その姿にフリンはもうなにも感じることはなかった。言われるがままに黙って依頼を受けた。人目を避け、ナラクに降り立った今、ナバールは怯え、フリンはやるせない気持ちに微かに息を吐く。
少しずつ歩みを進めてはいるが、すっかり腰が引けてしまったナバールは何をするにも悲鳴のような声をあげ、すぐに立ち止まり、ついには嗚咽じみた声まで漏らす。新宿までまだ先は長いとはいえ、ターミナルまで行けばなんとかなると思っていたフリンは、そんなナバールを少々持て余し始めていた。ナラクは暗く、確かに得体の知れない気配が終始漂う場所ではあるが、曲がりなりにもサムライを志した人間がこうまで醜態を晒すものなのかと、言葉にはならない重たい気持ちになりながら、フリンはため息をついた。ナバール。そして手を伸ばす。ここから先は道が悪い。手を貸すよ。びくりと身をすくませるナバールに、努めて優しい口調で続けると、そ、そうか、そうだな、と少しの躊躇のあとに指先に冷たいものが触れた。細かく震えるナバールの手を握り、フリンは歩き出す。ナバールが少なくとも文句を言わずについてくることに安心しながら、また一つ階を下った。
こうしていると、不思議と昔のことを思い出す。幼い頃から無口で自分の意見を口にすることがほとんどなかったフリンを引っ張ってくれたのは、快活で兄貴肌のイサカルだった。毎日のようにイサカルに連れられてあちこちに遊びに行き、子どもらしいいたずらに勤しんだ。18歳になったら嫁をもらい、畑を耕し、サムライになったイサカルが手柄話を土産に村に帰ってくるのを待つのだと信じて疑わなかった。あの日までは。あの日、全ての始まりの日、選ばれたのはフリンでイサカルは選ばれなかった。その結果、イサカルはフリンを恨み、悪魔に魂を売り渡した。フリンはそのイサカルを殺した。サムライとして、容赦なく、残忍に。同じ村で生まれ育ち、毎日のように一緒に過ごした相手だとは思えないほど、悲惨な別れ方をした。その傷が癒えないうちに、イサカルは再びフリンの前に姿を現す。ホワイトメンと名乗る人ならざるものとして。フリンはまたもイサカルを殺した。どうして救ってくれないんだ、と嘆きながら、血の涙を流してイサカルは死んだ。
こうしているとそんなことばかり思い出す。無口で頼りないフリンを疎んじることもせず、イサカルは手を引いてくれた。小さかったフリンの世界を広げてくれた。楽しいことはすべてイサカルと一緒に経験した。取り返しのつかないことや、サムライには時に非情に徹する心が必要なこと、どうにもならない別れがあることを教えてくれたのもイサカルだった。フリンを恨み、悪魔に堕ちながら、最期に心からの願いを託してくれた。それなのに。それなのにそれなのにそれなのに。ナバールと繋いだ手に知らず知らずのうちに力がこもる。イサカルはもういない。どこにもいない。それなのに自分は、かつてのイサカルの優しさをなぞっている。まるで、そうしていたら、イサカルが帰ってきてくれると信じているように。サムライになった今でも、誰かの思惑に木の葉のように翻弄されるフリンの姿を見て笑い、しょうがないなと手を引いてくれるのを待っているように。
でも、フリンは知っている。イサカルはもういない。自分が殺したのだ。この手で。(この手で)
きみ。遠慮がちに投げかけられた声に、フリンははっとする。もしかして泣いているのか。ナバールの声はひどく静かだった。今まで聞いたことのないほど、穏やかで優しいナバールの声。きみのように強い男でも、辛いことがあるのだね。その言葉に、我知らず頬を熱いものが伝う。きみは優しい。だから、誰もきみを責めたりしない。もしも泣きたいときがあるのなら、遠慮なく泣きたまえ。繋いだ手がわなわなと震える。ワルターもヨナタンもイザボーも、誰もそんなことは言ってくれなかった。誰かを殺せ。なにかを暴け。強くあれ。ただただ強くあれと。誰もが口を開けばそう言った。裏切り、また裏切り、そうして重ねてきたものたちは、今や世界を覆そうとしている。ナバールはそんな場所から逃げたサムライのはずだった。それなのに、その言葉ひとつにフリンは打ちのめされていた。
ナラクの暗闇は、怨嗟が無限に凝り固まったように黒ぐろと深く、冷たい。世界のどこからも切り離されたようなこの場所で、もう自分のことを覚えていない友の手を握りながら、フリンはあとからあとから涙をこぼした。イサカル。イサカル。あの頃きみはどんな気持ちでおれの手を引いてくれたのだ。イサカル。おれはきみのことばかり考えている。イサカル。イサカル。どうか助けてくれ。イサカル。おれはきみがいないと悲しい。イサカル。優しいイサカル。どうかまた手を引いてくれ。おれを許してくれ。どうかまた笑ってくれ。きみを救えなかったおれを、どうか許してくれ。








キミニハカナハナインダヨ
真4。フリンとナバール(とイサカル)
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