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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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目の前に開けなければならない扉があった。そこを開くと船上だった。
まるで金属でできた箱のような無機質な部屋(部屋?)は、ゆっくりと上下左右に揺れながら軋んでいた。がらんとした空洞にひとつきりくり貫かれた、波打つガラスの窓からは呆けきった青さが轟くので、思わず目を閉じる。まぶたを刺されたような痛みに、指で軽くそこを揉みながら、目を開く。今度はゆっくりと。紛れもない船上である。青空と青海原と沸き立つしろい波が網膜に襲いかかり、夢の中から唐突に現実に投げ出されたような漠然とした名残惜しさが、背骨の辺りから胸を揺する。小泉は窓の外を見るのをやめ、視線を右の掌に落とした。しろい掌だ。なにか大切なものを握りしめていたような気がする。のだが、思い出せない。やっぱり夢だったのかと再び窓の外に視線を投げる。呆けきった空と海の合間に、無遠慮に置かれた石くれのように島陰が見える。ジャバウォック島だ、と、脳裏に名前は当たり前のように浮かんだ。行ったことがあったかしら、と、思い浮かべただけで愚問だと気づく。自分はあそこで死んだのだ。たくさんのたくさんの血を流して。
ねえ。呼び掛けは自然に唇から溢れた。あたしたちどこに行くんだろ。さあな、と素っ気ない言葉は思ったよりも近くで聞こえた。肩越しに振り向くと、小山のような背中が見える。気障な白スーツがやけにくたびれて見えるのは、彼もまた死んだからなのかもしれない。などと思う。彼もまた、あの島で死んだ。たくさんのたくさんの血を流して。十神の背中はそれとわかるほどに憔悴していた。と、言うよりも、あれは本当に十神なのだろうか。あの島ではあんなに自信満々で、小泉にとっては理解しかねる使命感に突き動かされているようだったのに。小泉はじっとその背中を眺める。あたしたち、死んだはずじゃなかったっけ。小泉の言葉は無機質な空洞に僅かに反響して、十神はようやく微かにあたまを動かした。そうだな。そうだな。小泉は口の中でその言葉を繰り返し、胸に下がったカメラに触れた。大切なカメラだが、もう写真は撮れない。かつての小泉が、それを壊したのだった。絶望を得るために。
部屋はゆっくりと軋んでいる。あたし、ほんと役立たずだね。自然と笑みが溢れた。不思議なほど。カメラキャラなんだからさ、手掛かりの写真くらい遺せればよかったのにね。ひび割れたレンズを細い指で撫でる。指先に引っ掛かるのは、いつだってかなしみだ。でもねぇ、やっぱりできなかったよ。耳をすましても、この部屋には波の音すら届かない。それでも、どうして、と十神は問うた。小泉は微笑む。ともだち、だからかな。あのときの九頭龍の顔。いつだって、彼のかなしみは小泉の胸を刺す。指先に引っ掛けることもできない、彼のかなしみは。ぼくは。十神は振り返ろうとして、やめた。振り返ったところで、そこに虚ろしかないことを、小泉はなぜか知っていた。もう彼は十神白夜ではないのだと。右の掌に視線を落として、小泉はまばたきをする。大切に握りしめていたものは、すべてが誰かを傷つけていった。開けなければならない扉を開ける前の小泉ならば、確かにそれを望んでいたのに。
しっかりしなさいよ。しろい掌を、憔悴の十神の背中にそっと押し当てる。しっかりしなさいよ。不意にくぐもった声に、小泉は驚く。あとからあとから溢れる涙が、なにもかもを柔らかく歪めていく。十神。十神の背中が震えた。果てしない絶望と絶望と絶望と絶望と絶望と、その他にはなにもなかった、自分たちだ。悪夢のような現実に、悪夢であった、自分たちだ。あんなにたくさんの血を流して、それでも、それを歓ぼうとしている。あたしたち、どこに行けるんだろ。十神はなにも答えない。答えない。呆けきった空と海のまん中に投げ棄てられ、空にも海にも、ジャバウォック島にもたどり着けず、それでも彼を恨むことすらできないというのに。そのことを、かなしい、と、思うことすら。











キシャク
小泉と十神。
天国に行けないあのひとたち。
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