忍者ブログ
ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
[29] [28] [27] [26] [25] [24] [23] [22] [21] [20] [19]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

かの騒動からひと月余り。メフィストはかつての賢王ぶりを発揮し、呆けた城の体制と騎士団を叩き直して国中を謝罪に飛んだ。三銃士と呼ばれた彼らももれなくそれに随行し、幾度となく下げた頭を何度でも地面に擦り付けては過ちを火のように悔いた。彼らの退位除名を求める声は、穏やかなメイジャーランド国民とはいえないでもない。しかしアフロディテ及び姫の有事の素早い対応は国民に好意をもって受け入れられ、また彼らの過去の功績の今もなお続く高い評価を受けて、彼らの所業は不問という形で処理されることとなった。かの戦いの影の功労者である先王と、゛全ての音の源゛が、またメイジャーランドの恩人である少女戦士たちが、彼らをとうに許していたからとも言える。幸福のメロディーの歌い手である白猫の妖精が、その歌声でもって国中から暗い影を取り払った決着の日から、メイジャーランドとそこに住まう心優しい国民たちはまたひとつ魂に澄み渡るものを受け入れることとなった。かつて国中から忌避されていた「かなしみ」と呼ばれるものである。
地下の修練場にりんと張り詰めた静寂が漂う。バリトンはレイピアを片手に構え、じりじりとつま先を土がむき出しの地面に這わせた。対するファルセットは、両手をだらりと垂らしたまま、目だけを油断なくレイピアの切っ先に向けている。手にしているのはメイジャーランドでは珍しい片刃の剣で、刀身がわずかに反っている。食い縛った歯の間から短く息を漏らしてバリトンは距離を詰めた。眉間を狙った突きはファルセットの髪の毛を揺らすに留まる。斜め下から振り上げられた刃をこちらも紙一重でかわし、距離を取る。今度はそちらから向かってくるファルセットが、土くれに足を取られたのか不意に体を揺らした。バリトンは好機を逃さなかった。鎖骨の隙間を狙って刃を繰り出そうとした瞬間、ファルセットが体勢を立て直した。半歩ずらした体に突きはあっさりと空振り、伸びきった腕を肘で押し退けられた。引き戻そうとしたレイピアのヒルトにポメルを絡ませ、高い音を立てて弾き飛ばす。バリトンは詰めていた息をゆっくりと吐き、レイピアは地面に力なく落ちた。
そういう奇手をやめんかと言っとるだろうが。ファルシオンを担ぐようにバスドラが近づいてくる。いやぁわかってるんですけどね?ぼく非力ですし。剣を鞘に納め、ファルセットは困ったように笑う。真っ当な打ち合いじゃふたりに勝てないんです。しびれた手の甲を軽く振りながら、ついでにひとつ舌打ちをしてバリトンはレイピアを拾い上げた。その奇手にあっさり引っ掛かった自分が憎い。次はとバスドラがファルシオンを構えようとしたとき、扉がそっと開いてかぐわしい春風が流れ込んできた。取り込みのところを失礼。アフロディテ様!3人は顔を見合わせ、慌てて傍らに放り出してあったマントを着けると彼女の足元に跪いた。よいのです。楽になさい。しかし、と言い淀むバスドラの肩に手を触れ、砂埃を払ってやりながらアフロディテはにこりと笑った。王も姫もおらず無沙汰なのです。外に出たいので、護衛を頼みたいのだけれど。は、と3人は揃って頭を垂れた。アフロディテは手に既にバスケットを持っている。
草花萌え出づる緑野に柔らかなブランケットを敷いて、アフロディテは静かに紅茶を注いだ。王妃手ずから淹れたそれは、緊張に強張った3人の手足と胃袋にあらたかに染み渡る。どこぞより飛ばされた花びらが美しい金の髪に絡んだ。アフロディテは穏やかに街並みを見つめている。バスドラがカップを置いて立ち上がった。では、と短く礼をして(武器を帯びているので全礼をしない騎士式の礼である)、そっとその場を立ち去った。バリトンも同じようにする。ファルセットはカップをまとめてバスケットに戻し、剣を鞘ごと外してその傍らに置いた。アフロディテがファルセットと話したがっている、と、言葉にせずとも汲むことのできるバスドラを、王も王妃も重宝しているに違いないとファルセットは思った。アフロディテの目に障らないよう、彼女の斜め後ろにそっと膝を突く。メイジャーランドは平和そのものだ。自分を責めているのではありませんか。だから、アフロディテの最初の言葉には、それがどのような内容であれ、頷こうと決めていた。
アフロディテは肩越しに振り向き、あなたならそう言うと思っていました、と慈愛そのものでほほえむ。わたくしは取り返しのつかないことをいたしました。ファルセットは項垂れる。今日も、メフィストはまた謝罪の旅に出ている。随行させてほしいとのファルセットの強い申し出を一蹴して。許されるはずのない罪を許され、地位も守られ、この上どのようにして皆に償えばよいのか、わたくしにはわからないのです。せめて。せめて楽にしてほしかった、などと言い出すのではないでしょうね。アフロディテの言葉にファルセットは打たれたように深くうつむく。逃げることは裏切りです。わたくしたちだけではなく、バスドラとバリトン、メイジャーランド、あの少女たち。あなたを救ったものを全て裏切るのですか。アフロディテの言葉にファルセットはまばたきをする。しかし。自分がしたことは悪夢となって毎夜のようにファルセットを苛む。取り返しのつかないことをしようとしていた。この手で守るべき全てを、この手で擲とうとしていた。
ファルセット。爪が食い込むほど握りしめられた手に手を触れさせ、アフロディテは静かに言った。わたくしは思うのです。わたくしたちからあのときの悲しい記憶を全て消し、メフィストとあなたたち三銃士のしたことを夢のように消し去ることも、あの戦士たちにはできたはず。それをしなかったのは、あなたたちが憎いから、あなたたちを苦しめたいから。そうではないのだと。ファルセットは顔を上げる。あの戦士たちは言いました。悲しみを受け入れると。自分達と違うものを、違うから、拒絶するのではなく、違っていていいのだと。悲しみだって、大切な心だと。アフロディテはにこりと笑う。ファルセット。悲しみなさい、悲しんで、苦しんで、悔やんで、それでいいのです。それを受け入れて、受け入れられて、あなたはここにいるのだから。ファルセットは目を丸くした。まばたきをすると、胸の奥がしわしわに軋む。あなたがいなければ。アフロディテはそっとファルセットの手を撫でる。わたくしたちは本当の悲しみを知ることはなかったでしょう。
野には花が咲いている。桃色、黄色、純白、紫。赤に青に橙に空色。ファルセットは目を閉じる。あの日々。戦士たちと戦い、悲しみに寄り添った日々。不思議と毎日が楽しかったのです。我知らず、ファルセットはぽつりと呟いていた。ぼくは、ひとりではなかったから。ずっと。アフロディテがじっとこちらを見つめていることに気づいて、申し訳ありませんとひれ伏すファルセットを、アフロディテはやはりほほえんで見つめていた。セイレーンの傍にハミィがいたように、あの大いなる悲しみの傍にファルセットがいたように、誰も、確かに誰も孤独ではなかった。バスドラとバリトンが手に手に花や木の実を抱えて戻ってくる。城に虹色の鍵盤がかかった。メフィストも戻ってきたようだ。帰りましょう。ファルセット。アフロディテの言葉に、ファルセットは笑って頷く。風は遠く遠く遠くから吹き、ファルセットの髪の毛を揺らしていった。








種の日々
スイプリ最終回に寄せて
PR
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
まづ
性別:
女性
自己紹介:
論破されたい。
adolf_hitlar * hotmail/com (*=@)
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright (c) All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]