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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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石をふたつみっつ放り込むと水面が揺れて、波紋がそこに映る男の顔をぐにゃぐにゃに歪ませるのがおもしろくて何度かそれを繰り返した。いい加減うっとうしいような顔をした血色の悪い男は、そろそろやめないか、と呆れ返った口調で言う。え、なんで?貴様が投げ込んだ石はこちらにまで届いているのだ。顔に当たって痛くてかなわん。えっ本当に、と響が顔を輝かせると、嘘に決まっているだろうと男はうんざりしたように答えた。それよりもなぜ嬉しそうな顔をした。もっと違うものを入れてみようかと思って。あれとか、と響は殺風景な石畳に片寄せられた廃材の山を指さす。そんながらくた投げ込んでみろ、承知せんぞ。でもここが片付くからみんな喜ぶと思うよ。響の言葉に男は露骨に顔をしかめた。よくもこんな爆弾娘を連れて来たものだな。ファルセット!何度か呼ばわるも返事はない。いないよと響が代わりに答えてやった。どこへ行った。しらなーい。時計塔の屋上はがらんとして人気はない。
申し訳程度に穿たれた窓からはいい加減赤く染まる空が見えた。床をしかくく切り取る赤光を時おり影がよぎる。響は彼についていくのを咎められなかったのでついてきただけだ。あの時計塔にこんな隠し部屋があったことがまず驚きで、人気はないがそこかしこに隠しようもない生活感がごたくたと転がっていたことがそれ以上におかしかった。ここに住んでるの。興味津々で訊ねると、そうだよ、と彼はなんでもないように答える。ひとり?いいえ。ぼくを入れて4人。家族なの?響の言葉にうーん難しいなぁと彼は首をかしげ、まぁ当たらずとも遠からずといったところでしょうか、と答えた。当たらずとも遠からず。その言葉が気に入って、響は何度か口の中で転がしてみる。うん、いいね。当たらずとも遠からず。そうですか。彼は息を吐くように笑った。今日は、みんないないの。いろいろと事情がありますから。響は後ろで手を組んでうろうろと石造りのそこを歩き回る。水鏡がしゃべったのはそのときで、響はそれが一目で気に入った。
偉そうなおじさん。響は水鏡の脇にしゃがんで、指先で水面に触れる。男の顔がまた緩やかに揺れた。なんだその呼び方は。だって名前知らないから。男は唇を不愉快そうに曲げ、なぜ貴様のような小娘がここにいる、と先ほどから何度も繰り返している問いかけをまた響に投げつけた。だって帰れって言われなかったから。ええと、ファルセットに。ここは子どもが遊び半分に来るような場所ではないのだぞ。でも帰れって言われなかったよ。だったら言ってやろう。今すぐ帰れ。そして二度とここに近づくな。響はむくれる。おじさんに言われたって知らないよ。わたしはファルセットと一緒に来たんだから。ならばあれの口から帰るように言わせてくれる。ファルセット!だからいないんだってば。男は歯ぎしりのような唸りを上げて髪の毛を掻きむしった。古いワインのような赤い髪の毛。響はまばたきをして水鏡を見つめる。おじさんおもしろいね。男はどっぷりと疲れたような顔で響を見る。
響はおもむろに靴を脱ぐと、そっとつま先を水鏡に降れさせた。わっ冷たい。何をしている。突然足を突っ込まれた男がうろたえたように言った。入れるんじゃないかと思って。入れるわけがないだろう。男は慌てたように言い、シッシッと響を追い払うような仕草をした。入れるよ。響はむきになって、そこに飛びかかろうと身構えた。男の顔が青ざめる。よせ!その言葉に呼応したように、響の両腕が後ろからそっと掴まれた。どうしたんです。首だけで振り向くと彼がぱちぱちとまばたきをした。裸足で、なにしてるんです。ファルセット!貴ッ様ァどこをほっつき歩いていた!いえすみません別に大した用事では。激昂する男にへこへこと頭を下げながら、彼はそっと響を水鏡の死角へ連れ出した。いつの間にか手に靴も持っている。怒られちゃった。あのひとはいつも怒っていますから。悪びれずに言う響に、彼は困ったような顔をした。それより、これを。差し出された靴を受け取る。あしのうらが冷たい。
ファルセット。響は手を伸ばして、今度は逆に彼の両腕を掴んだ。その目がじっと響を見る。帰れって言わないで。まだ。少しでいいから。彼は一瞬考えるような顔をして、首を伸ばして水鏡を見た。男の声は聞こえない。帰れって言われたけど、わたしはまだ帰りたくない。あのおじさんとも、また話したいんだ。彼はそれには答えずに、あのひとが怖くないの、と問いかけた。うん。怖くない。響は頷く。おもしろいおじさんだったよ。彼はそれを聞いて、崩れるように笑った。窓から射し込む光は力をなくし、濡れたつま先が今さら冷たい。ファルセット。あのね。言いかけた言葉は喉元に絡んだ。咳き込むように笑って、響は彼の胸に額を押し当てる。帰れって言わないでくれてありがとう。どういたしましてと彼が穏やかに言う。あの水鏡に飛び込んでいたらどうなっていたのだろう、と思う。彼は追ってきてくれただろうか。それとも。(それとも。)








ガニメデトラベラ
スイプリ。メフィストと響とファルセット。
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