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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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髪の毛は何度も脱色したのでごわごわに傷んできれいにまとまらずに広がる。それをろくすっぽ櫛も入れずにざっくりと分け、生え際で結わえると江ノ島盾子の出来上がりだ。髪の毛には自分で手を入れるなと言われていた。今をときめくスーパーモデルの盾子には専属のスタイリストが5人もついている。髪だの服だの爪だの肌だのをちゃきちゃきといじくられて誕生日のプレゼントみたいに仕上げられ、長い手足を惜しげもなく晒してジャングルのようなカメラの前に立ちながらであっても、盾子の脳みそは今をときめく超高校級の絶望である。悪巧みが得意な顔だとついこの間寝た某誌の編集長が言ったので、盾子は彼のからだの上で思いきり背中を反らせてやった。案外こういう身も蓋もない(、という言い方は正しいのだろうか?)男の方が自分の本質を見抜いているような気がする。睦言などは寒気がするのでそういう方がいい、と盾子は思っている。手櫛でざらりとかき分けられた髪の毛は必ず男の指に絡むので、つまりそういうことよ、と盾子は既に割り切っていた。
戦刃むくろの髪の毛は長く伸ばされることがない。戦場においてはそれこそ髪の毛一筋が生死を分けることすらも稀ではないという。だからむくろは髪の毛を伸ばさない。いつでも肩の辺りで無造作に切られたつややかなむくろの黒い髪。今度いつあっちに戻るの。スニッカーズをかじりながら盾子はグラスに牛乳をどぼどぼ注ぐ。水着のグラビアを控えているのでマネージャーに甘いもの禁止令を出されている。割に旺盛な食欲で盾子は牛乳をあおった。しばらくは行かない。つっけんどんなむくろの声はこれでも常態であり、むしろ機嫌がいいな、と盾子は思った。昼間から盾子がいることが嬉しいのだろう。ここしばらくは忙しかったのであまりむくろに構っていない。飲む、と牛乳を指すと少し考えてから飲むと答えた。別のグラスを出して牛乳を注ぐ。手を伸ばせばなんにでも届く生活に、戦場帰りのむくろはまだうまく馴染んでいない。リビングのテーブルの上で組まれたしろい手の甲にはフェンリルの刺青が掃かれている。
何人殺したの。むくろの前にグラスを置いて、自分もその向かいに座りながら盾子は言う。覚えてない。むくろは両手でグラスを包むように持って、そこに目を落としながらやはりつっけんどんに答えた。戦争だから。幾百万人殺せば征服者、っての、こういうのも。ジャン・ロスタンか。むくろは意外そうな顔をして、冷たいグラスを吹くようにした。幾百万人もはいなかったかな。そうして少し考えてから真面目な声で言う。少なくともわたしたちは一人も死ななかった。まさに絶望だね。そうでもないよ、とむくろのそばかすがわずかによじれた。人為的に引き起こせるものなんて絶望とは言わない。その言葉に盾子は自分のからだを両腕で抱く。ああっもうッ、残念なお姉ちゃん!椅子の上で大袈裟に身をよじる妹の姿にむくろは目を丸くした。なに。あのねえ、と盾子は真っ赤な付け爪の指をむくろに突きつける。あたしたちは人間なのよ。叡知の申し子考える葦なのよ。煙か土か食い物しかないなら死んだ方がましだわ。そうじゃないの。
むくろは静かにまばたきをして、息を吐くように笑った。そうだね。盾子もまたにまりと笑う。当然よ。わたしたちもつくづく業が深い。椅子に深くもたれ、天を仰いでむくろは言った。無防備な真っ白いむくろの喉。つまりそれらは"叡知ある"人間の為すべき所業でしかないのだ。死んだ方がましだわ。盾子は自分の言葉をもう一度頭の中で繰り返す。超高校級の絶望の溶かし込まれた混沌は、投げ込まれた言葉に歓喜しているように波打った。笑みを消すとむくろが首を起こして盾子を見る。盾子ちゃん。身を乗り出したむくろの冷たい手は盾子の首筋を撫で、頬を撫でるとごわごわの髪の毛をするりと滑り落ちた。煙か土か食い物でいいと闘う姉には。盾子は長いまつ毛をまたたかせる。あたしの気持ちをわからせてあげてもいい。語るべき理想を盾子の中に探すむくろは、やはり人為的に引き起こせる絶望でしかない。盾子はにこりと笑った。誕生日プレゼントのように着飾る自分は、やはり全き絶望のための贈り物であるべきだ。
オーヴンが鳴り、キッチンタイマーや電子レンジや、その他いろいろな音が唐突にリビングに溢れる。盾子もむくろも口をつぐんだまま、豪勢な料理が次つぎ並んでいくテーブルを挟んでじっと見つめあっていた。食べよう。顔が映るほど磨かれた銀のナイフとフォークを手に取り、盾子は屈託なく笑う。むくろも同じように食器に手を伸ばし、いただきます、と囁くように言った。明日は雑誌のインタビューとCMが2本。水着を合わせてからカメラマンと食事をして、たぶん寝る。全く自分は添え物だ、と盾子は思う。いつか世界を巻き取る絶望の添え物だ。全く身も蓋もない。未来もない。ウサギのマスタードソースにフォークを突き刺すとだらりと透明な汁が滴った。マケドニアの食卓よ、と言うとむくろは少し笑った。これで満足しておくしかない。










リビンオダイナーマケドニア(マケドニアのディナーをリビングで)
盾子とむくろ。
征服者の食卓。
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