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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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じゃらじゃらといかつい装飾品をぶら下げた赤毛の耳は、先端がかすかに赤らんでそれが冬を思い出させた。桑田は厳重に閉ざされた正門を、それしかないようにうろうろと落ち着かない様子で歩き回っている。立ち止まると不意に訪れる癖を、ないことのように振る舞いたいのだろう、と思った。野球なんて泥臭いことは好かないと豪語した桑田は、それでもときどき手の指を曲げてなにかを確認している。後ろの二指を深く畳み、人差し指と中指を大きく広げて軽く曲げる。大和田は野球には明るくなかったが、その指の曲げには見覚えがあった。桑田の手は上背に比べて大きく、指はすらりと長い。それこそ超高校級のフォークを投げるのだろうと大和田は思った。打者の手前で深く沈むフォークは桑田に似ていると思う。握手の手を突然引っ込めて嘲笑するような。フォークやチェンジアップの握りで手首を効かせ、それに気づいてふと腕を下ろす桑田を、大和田はここに来てから何度も見た。
桑田は細く削った眉をいつもいらいらとつり上げ、気短な言葉を吐きながら、一方では舞園や江ノ島への下心を隠しもしない。初日に大和田が大神とさんざん殴った鉄の壁はのっぺりと冷たく、監視カメラとガトリングに睨まれた正門は息がつまるばかりの場所だが、桑田がなぜここに好んで足を運ぶのか、大和田はわかりかねている。それも自分の前に立って。大和田は面倒が嫌いなのでこの場所が好きだった。なにかしている気になれる。それがびくともしない壁をただ撫でているような、極めて無意味な行為でしかなくても。先ほども桑田は苗木と連れ立ってやって来た舞園に、大言壮語としか思えないような夢をしゃあしゃあと語っていた。幸せな野郎だ、と思う。落ち着かない桑田はそれでも大和田の目にも障らない。目的があって、それが甘ったるく溶けやすいような夢みたいなものならば、そういうものを持っているやつが一番幸福なのだ。少なくともこの場所では。そして、こんな馬鹿げた状況では。
冬の籠坂峠の凍った路面で、先頭を走る兄の後ろを脇目もふらずに駆け上がったときよりも、深夜の環七で荷を満載したデコトラと競ったときよりも、自らが事故を起こしたときよりも事故を起こさせてしまったときよりも。何故だろう、と大和田は思う。何故こんな場所の方が死に近いのだろう、と思う。鉄に囲まれたこんな場所の方が、冬の指先よりもずっと血なまぐさいのは。ふと目線が桑田にぶつかる。左手を垂らし、右の脇を絞め、軽く上体を捻っている。スイングの体勢だ、と思った。桑田の引き締まった腕は、どんな豪速球も美しい彗星のように流す。甘ったるく溶けやすい馬鹿みたいな夢があって、それは少なくとも桑田には、大和田の持たないものがあるという揺るぎない事実だった。その甘さが、大和田には取るに足らないものだったとしても。それでも桑田はまだ、忘れようとしたものを忘れられずにいる。どんな気持ちなんだろうと思う。棄てようと決めたものに救われるというのは。
桑田と目が合う。細い眉がつり上がる。剥き出した白い歯の、犬歯がひどく鋭い。なに見てんだ。桑田の低い牽制に、大和田はなにも言わなかった。虚勢を張るのは得意だった。この中の誰よりも。大和田は目を反らす。うるせえな。別に見てたわけじゃねえよ。桑田は舌打ちをして、両手を細身のパンツのポケットに突っ込んだ。そうしてまたいらいらと歩き出す。大和田の目には決して障らない。もしかしたら桑田は、そうやって悔いているのかもしれない。忘れようとしたことそのものを。大和田は頭の後ろに触れた。昔むかしの傷がそこにはある。おまえ。不意に向こうから話題を振られて、大和田は顔を上げた。桑田がまっすぐにこちらを見ている。殺せるか?低く短い問いだった。ひどく簡潔な、しかしその言葉を聞くまで、大和田は忘れていた。大和田にはないものを持っている桑田には、そうするしか活路はないのだと。幸福な桑田。冬みたいな赤い耳をした桑田。
そうか桑田は殺せるのか、と大和田は思った。そして、桑田ならそうするだろうとも。返事のない大和田に堪えかねたのか、桑田はまた舌打ちをして背中を向けた。桑田の甘ったるい夢。馬鹿げた夢。それでも桑田は幸福だ。持っているのだから。持たざるものの、それを、桑田ならなんと呼ぶだろう。苗木なら、舞園なら、大神なら。答えはない。桑田の指が今度はシンカーを握る。冬のようだ、と桑田は思った。ドラム缶で起こした焚き火の、その一筋を掬うような。おい。大和田の声に、桑田は振り向かなかった。振り向いたら、殴ってやろうと思っていた。冬の指先とそこに燃える火と、桑田と大和田と、いつか舞い降りる死の影。この場所はずっと死に近い。持っていることだって虚しい。そのことが大和田にはわからない。大言壮語に騙されて、桑田は泣いているようにも見えた。『ほっといてほしいのおねがいだから』血なまぐさい鉄の箱には自分と彼らが孤独なばかりだ。

ほっといてほしいのおねがいだから
目をつむるわ
なにも
見えないように









ヒトリ
大和田と桑田
お誕生日おめでとうございます。
リスペクト谷川俊太郎「ひとり」
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