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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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宇都宮で出会ったあのひとに恋をしたのだ。
生まれて初めての恋は、彼女に極上のロイヤルミルクティの味だけを刻んで花のように散っていった。梅雨の頃だ。セレスはそのときの自分の格好も覚えている。モワ・メーム・モワティエのワンピースにクエスチョンマークのエナメルレインブーツ。アニエスベーの薔薇模様の傘を差してセレスは運命のひとが失われるのを見ていた。人好きのするふくよかな顔と体。糊の効いた服ときれいに切られた爪。セレスをまるで一流のレディのように恭しくもてなす仕草。柔らかな言葉。繊細さとはほど遠いその指が魔法のように淹れる魔法のようにおいしいミルクティ。そうしてそれよりも遥かに熱くセレスの心を溶かした、穏やかで優雅なその笑顔。彼のする全ては、どんな言葉よりも雄弁にセレスの中に響いた。まるでオーケストラのように。未だにそのときの甘やかな陶酔を棄てきれていないのかもしれない。セレスはあの日以来、決して埋まることのない深い谷を抱いて生きている。
どー考えても有り得ないと思うんだけど。江ノ島はセレスのベッドに腰掛け、左足を右の腿の上に引き上げて爪を磨いている。上の空だ。そうですわね、とこちらも半ば上の空でセレスは優雅に脚を組む。江ノ島は部屋着のショートパンツ姿で、ともすると下着が覗いてしまいそうな奔放な姿を昼でも夜でも改めもしない。なにか召し上がります?いらなーい。江ノ島は爪に丹念にやすりをかけ、かざしてしげしげと眺め、またやすりを動かす。豊かな洗い髪が江ノ島の顔の周りでしっとりとわだかまっているせいか、普段よりもこの部屋は湿度が高い。セレスはブサ専なんだね。丹念に磨いた爪を眺めながら、江ノ島は感心したように言った。その言葉に、セレスは優雅にカーヴした眉をはね上げる。とんでもありませんわ。わたくしは美しいものしか愛したりしませんの。江ノ島はマスカラなどつけなくても濃く長いまつ毛の下の、わずかにくすんだような色の瞳をセレスに向けた。この目には覚えがある。セレスは唇をそっと吊り上げた。
江ノ島は挑戦的な仕草で脚を床に下ろし、それをすらりと組む。憎たらしいほど。セレスは思う。憎たらしいほどこの女はきれいだ。きれいで、非の打ち所がない。そのくせ江ノ島には決定的に足りないものがある。なにが足りないのか、それは百戦錬磨のセレスにもわからなかった。なに考えてんの。思っていたことを先んじて言われ、セレスは莞爾と微笑む。明日の朝食のことを。ハッと江ノ島は下品に鼻で笑う。そんなはすっぱな仕草すら、この女にかかればなんとも麗しい。今ごろあの肉ダルマ、不二咲オカズにオナってるかもね。セレスは目を細めた。幼稚な挑発は、放った江ノ島さえもその効果を諦めるほどに無意味に床に落ちた。セレスはすいと立ち上がり、江ノ島の肩にそっと手をかけてそのまぶたに唇を押し当てた。江ノ島は身じろぎもしない。ボディバターだかトリートメントだかの、バニラの甘い香りがする。しっとりとわだかまる江ノ島の長い洗い髪。
あのひとの美しさは、わたくしだけがわかっていればいいんですの。セレスは口には出さずにそう囁いた。思わぬ近距離で覗き合う瞳には、この上なく幸福な(そう見えるに違いない)が小さく映り込んでいる。馬鹿馬鹿しいほどの幸福の模倣。江ノ島はその爪を誰のために磨くのだろうと思った。誰かの背中に突き立ててしがみつくために磨かれるのだとしても、そうして万が一にも、その爪が彼の背中の豊かな肉を掻きむしる日が来るとしても。セレスは江ノ島の冷たい頬に冷たい手を触れさせた。そのときもきっと自分は、こうやって優雅に、穏やかに、満ち足りたように、笑っているに違いない。彼の美しさは、自分だけに思い至ることができる桃源郷だ。江ノ島ごときの女には、たどり着くことさえ叶わない。やりたいの。江ノ島は笑った。セレスは意味ありげに微笑む。わたくしの純潔は愛するひとに捧げると決めていますの。残念、と江ノ島は笑った。やはりこの女はきれいだ、と思う。
宇都宮で恋をしたあのひとには既に愛するひとがいて、そのことはセレスの中で永遠に埋まらない果てしない峡谷になったけれど、その代わりにセレスを強く美しくした。その磨き抜かれた絶望が、あの雨の日にわたくしを訪なわなければ。セレスは思う。きっとわたくしに残るものはなにもなかった。今ならばわたくしはそのために「死んでも構わないと思っていますのよ」江ノ島はセレスを一瞬眇め、それからゆっくりと、空気を押し出すように笑った。こんなこと言ったらあんたは怒るかもしれないけど。江ノ島がしゃべるたびに、頬に添えた手のひらがかすかに揺れる。あたしとあんたは似てるよ。あんたがなんと言おうと。セレスはまばたきをする。仕方のないことだ。それも運命なのだから。あのひとに恋をしてしまったことが、あきれるほどに素直に恋をしてしまったことが、これからセレスをさらなる絶望に引きずり込んだとしても。江ノ島はにやりと笑うとセレスの白磁の頬に唇をかすめた。
希望の高みの、雲も見えない光の最中で、あのひとに恋をしたのだ。
そして運命は七番目のラッパを吹く。








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