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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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朝日奈がランドリーに行くといつも葉隠がそこにいる。よれよれのペーパーマガジンを読みながら空っぽのランドリーに向かって、朝日奈が入ってくると首だけで振り向いて、ようおれの嫁、と笑う。いつも。嫁じゃないよ。否定はランドリーに行った数だけ繰り返してはいるが、葉隠はいつもそう言う。物語を半端に止めたペーパーマガジン。空っぽのランドリー。すっかり乾いて板のような質感になった洗濯物の群れ。ようおれの嫁。奇妙に快活な葉隠。最初のうちは葉隠の前で洗濯をするのが嫌で、彼の姿を見ると朝日奈は部屋に引き返していたが、変化のない日々に惰性めいた倦怠はいつしか朝日奈を無頓着にした。机に尻を乗せて雑誌を繰る葉隠の背中を回り込んで、一番奥のランドリーに洗濯物を押し込む。蝕まれたのは朝日奈だけではない。すすぎは一回だべーと訊いてもいない一人言の葉隠の目は、ずいぶん前から雑誌を追うことをやめている。
朝日奈は椅子を引っ張ってきてランドリーの前に陣取る。低い唸りでランドリーは回り、唸りが立てる単調な水の音は眠気よりもむしろ不快に近かった。朝日奈にとって水は濁流でしかない。荒々しく掻き分けられ耳の横で渦巻く濁流。鏡のように澄んだ水面の先頭を喰い荒らす、朝日奈はいつでも侵略者だった。それがまるでずっとずっと昔のことのようで、その冷たい手のような感触に喉の奥が締め上げられる。あんまりじっくり見てると酔うべ。その言葉にふと横を見ると、じっとこちらを見る葉隠と目が合い、朝日奈はわずかからだを引く。そんなにビビらなくてもいいべー取って食ったりしねえべ、と冗談ともつきかねることを言い、アッハッハと葉隠は恐らく無意味に笑った。結局は真面目なことを長くは考えられない朝日奈だ。食われちゃ困るよーとつられるように相好を崩す。
葉隠はなぜか得心げに頷き、うんうんそれくらいでいいべ、おれの嫁はそうでないと、としみじみと言う。あたしはあんたと結婚したりしないよ。そうとも言い切れないべ。葉隠は朝日奈をまっすぐ指差す。おれの占いは三割当たる!じゃあ七割は外れるんじゃん。まぁまぁ待て待て皆まで言うな。おれの占いによると、ここを無事に出られたおれと朝日奈っちはめでたく結ばれて子どもを授かるべ。最初の子は男の子だべ。なにその生々しい占い!?驚く朝日奈に葉隠はさらに続ける。ちなみに出られなくても結ばれるべ。もっと嫌!アッハッハと葉隠は笑う。まぁどっちにしろ朝日奈っちはおれの嫁だべ。なもんであんまり考えるのは母体にもよくないべ。朝日奈っちはバカだから難しいこと考えすぎると頭がパンクするべ。はぁ、と朝日奈は深々とため息をつく。バカはどっちよ。同病相憐れむってやつだべ。その言葉に朝日奈は困ったように笑う。
朝日奈はいつでも侵略者で、ただ頂点を目指してひたすら走り続けることだけを望んできた。ふと朝日奈は言う。あんたを殺したらあたしは出られるね。そうだな。無人のランドリーで、葉隠はいつでもここではないどこかを見ている。でもおれは朝日奈っちを殺さないべ。なにもかもが時間を止めた場所に、馴染むまいと足掻く行為は虚しいだろうか。朝日奈っちはおれの嫁だからな。濁流に挑む自分に葉隠は手を伸ばすだろうか。伸ばしはしない、と朝日奈は思う。朝日奈は侵略者だ。いくつもの敗北の上にしか安らげない。だから諦めておれに食われちまえ。今だって。朝日奈はにっこりと笑う。孤独なランドリーの下に、いくつもの死を積み上げて、それでもなお笑ってしまうのだ。思い出すものを確かめては捨てるように。あたしたちどうしようもないね。だろ。葉隠は感情の読めない顔で笑う。同病相憐れむってやつだべ。そんなもんだ、おれとおまえなら。
「退屈は遊びさ」
そのほかを望むことを、許すだろうか、と思った。










コインランドリー
葉隠と朝日奈
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誕生日にりぼんのついたヘアゴムを贈った同じ日に、姉がよこしたのはおもちゃの拳銃だった。ピンク色の水玉模様の、その当時彼女が持っていたワンピースに一番似合うヘアゴムは、結局一度も姉の髪には飾られることはなく、それからのその日は彼女にとって気の鬱ぐだけの日になった。姉がよこしたおもちゃの拳銃は学園に入る前に家から持ってきた。今も手元にある。家では埃をかぶるばかりだったばか臭いおもちゃが、気づけば彼女の心を強くしていたことに気づく。気づかなければよかったと思った。安っぽい銀玉鉄砲。あれは当時姉の気に入りのものだった。拳銃をもらった自分は果たして喜んだのか嘆いたのか、それが今でも思い出せない。りぼんのついたヘアゴムを受け取った姉が喜んだのか嘆いたのか、それを思い出せないのと同じように。しかし確かに挫折の始まりはここだった。そんなことには今でも気づかないふりをしていられる自分が誰よりなによりばか臭い、と彼女は思っている。
気は鬱ぐがその日は年に一度必ずやってきて、必ず彼女をひどく傷つけた。ヘアゴムの次はおもちゃの指輪を贈った。きれいな海色のがらすのついた指輪だったように記憶している。姉からは小さな戦闘機のプラモデルを貰った。その行方は覚えていないので、もうどこにもないかもしれない。姉というのは昔から掴み所のないひとで、その印象は彼女の中で影のように奇妙にぼやけたままだ。今もなお。優しいのか優しくないのかすら曖昧だが、少なくとも邪険にされたことはなかったように思う。彼女も同じだった。姉に優しくした記憶もなかったが、疎んじていたわけでもない。ただ、自分と姉の容姿が似ていることと、誕生日が来ることだけが耐えられなかった。努力家の姉と爛漫な妹で、いつまでもいられたならば、それにも耐えられたのかもしれない。いつか分かたれると気づいていたからこそ。彼女は長いつけまつ毛の目を伏せる。耐えられなくなったのだ、と。
姉には夢があった。そのために姉は彼女の前から消え失せた。さよならも言わずに。どうせならそのときに別れてくれればよかったと思う。姉は姉が無表情でよこす拳銃や戦闘機そのもののような人間だった。彼女の心にはなにひとつ引っ掛からない。会話も気持ちもうまく馴染まなかった。お互いがなにを考えているか、知ろうともしなかった。今思えば、似ているだけの容姿が皮肉なほどに。ばか臭い。彼女はおもちゃの拳銃を指先でくるくると回す。モニタには安っぽいドラマのような殺害現場が映し出されていた。死体が発見されました!定型文アナウンスはあらかじめ吹き込んである。恐怖に、困惑に、嫌悪に、絶望に、かつての友人たちの顔が歪む。ここまでくればただの茶番だ。もうそろそろ諦めればいいのに。彼女は首を反らし、こめかみにおもちゃの拳銃を押し当てる。引き金は引かない。それを引くのは、すべてが済んでからと決めている。
彼女が最後の誕生日に姉に贈ったのは、真っ赤なエナメルの付け爪だった。姉からの贈り物はまだ届いていない。









さらばの海
江ノ島
ナイフもフォークもあまつさえ手指を用いることすらせず、豪奢な卓も糊の効いたクロスも空の皿すらなかったが、その場が晩餐の場であったことを何故かふたりとも知っていた。そうしてそれが終わってしまったことも。びろうどの闇にほのかに透明な、その頬は月を切り抜いたように冴え冴えと冷たい。わたくし。彼女は言う。本当はこうなればいいとずっと思っていましたのよ。はい?彼は首をかしげる。彼女はどこか遠くをじっと見たまま、塑像のように動かない。苗木くんはわたくしに薔薇の花をくれましたの。唐突な言葉に、彼は肉に埋もれた目を数度またたかせる。かわいらしい指輪や素敵な香水も、苗木くんはわたくしにプレゼントしてくれましたわ。彼女が見ている方に視線を向けてみても、ただ空虚な闇が漂うばかりだ。晩餐の終わったその場所では、時間ばかりが奇妙にあおく澄んでいる。
最初にここに来たのは彼だった。なにも叶わなかった世界に落胆はしない。ただし心のどこかで火のように願っていたことが、やはり火のように踏みにじられたことは虚しかった。彼女もまた、彼の後を追うようにここに来てしまったから。静かですわね。彼女はぽつりと無感動に言い、彼は言うべき言葉をなくして戸惑った。どちらでも構わないと思って、どちらをすることもできなかった。彼女を惨めに恨むことも。なぜ来てしまったと惨めに泣くことも。ぼくを笑いますか。彼は眼鏡をかけ直しながら問いかける。いいえ。そして彼がなにも言わないうちから、彼女はきっぱりとそう答える。わたくし、本当はこうなればいいとずっと思っていましたの。だから、わたくしはあなたに決して詫びたりしませんわ。彼は彼女を伺う。透明なしろい頬。後悔はしていないと彼も気づいていた。願いは、だから叶わなかった。
苗木くんはわたくしをここへ連れてきましたの。わたくしたちのことをとても哀れんでいましたわ。彼女はそれがまるで遠い昔のお伽の国で起きたことのように、淡々と静かに言葉を重ねた。苗木くんたちがわたくしたちをいかに哀れんでくださっても、彼らもまた死の行進の渦中にいることに変わりはありません。たとえ今はなにも見えなかったとしても、わたくしたちは皆絶望に追われるレミングスだったのですから。ただ。彼女はそこで言葉を切り、彼を横目で見た。わたくし、言葉が過ぎますこと?彼は首を振る。とんでもありませんぞ。残機ゼロでティウンティウンした我々には、時間だけはたくさんありますからな。彼女はそっと唇をほころばせて、かすかに笑ったような気配を漂わせた。いつの間にか晩餐も終わってしまいましたわ。彼は口をつぐんで頷いた。確かにそれが彼らのために用意された食事であったことを、不思議とふたりにはわかっていた。
終わってしまいましたな。無意味なような彼の呟きに、今度は彼女が頷いた。苗木くんたちはわたくしに、わたくしのための死をプレゼントしてくださったのだけれど。彼女は豊かな巻き髪を揺らして彼に向き直る。だけど、あの中の誰も、わたくしのために紅茶を淹れてはくれませんでしたわ。彼は一瞬言葉を詰まらせ、それから、崩れるようにだらしなく笑った。晩餐は終わり、死の行進は止まず、哀れなレミングスは力尽き、彼女は生まれ変わってもマリー・アントワネットになれるはずもなかった。そんなことはわかっていた。それでも。それでも。安広多恵子殿は、ロイヤルミルクティーをご所望でしたかな。驚くほど穏やかに彼は言い、その言葉に彼女はこぼれるようにほほえんだ。終わってしまったことならば、振り返る必要もない。後悔もなければ、願いも望みもない世界で。
あら。彼女は驚いたような声をあげた。その華奢な指が空を指す。山田くん、見て。彗星が流れていきますわ。ああ、と彼は感嘆の声をこぼす。まるで時が見えるようですな。









晩餐後
山田とセレス
『申し上げます
  申し上げます
    旦那様』



それよりも失ってしまうことが怖いのだからと彼女は言った。口癖のように。手に余る虚しい後悔の根元は満ち足りたあの女の死で、償うことに異論はない。命の天秤の反対は命でしか釣り合わないのだから。汚れた指先が最後に擦ったのは自分の名前だという。馬鹿みたいだ。彼の目の前の空の椅子にはどこまでも重たい沈黙が座っている。(あいつらも)彼は思う。(いずれここに来るだろうか)
そのときの甘美な絶望を、彼らは彼女らはどんな顔をして享受するのだろうと思う。百万の星の声を聴くようなあの甘美な絶望を。それよりも失ってしまうことが怖いのだからと、逃げるように遠くの戦地に赴く彼女は言った。あなたも思い出したの。と。わたしはあの子を愛していた、と。彼は笑う。今さらではないか。おれたちの二年間を、この女はどこに置いてきたつもりになっているのだろう。
痛かった?彼女は言う。痛かった。彼は答える。彼の前の空の椅子にはいつの間にか絶望がうずくまっていた。その華奢な背中からはいくつもいくつも墓標のように槍が聳えている。血に染まる狼の夜。彼は思わず自分の顔を指でなぞった。たちまち後悔する。人のからだとも思えないおぞましい感触。彼を包むのは千の白球に蹂躙されたもろい肉体だけだと知る。命の天秤の反対に乗せられた、それは運命ですらあった。
例えばそれが三割しか当たらない占いの答えであっても、その三割を課せられたのならば、あの女がその汚れた指先でなにを思ってその名を書いたのかを、そのときの感情のすべてを、幸福に思ってもよかった。憎んでくれたらいい。彼女は肩を震わせた。わたしたちいつかきっとこうなるべきだったんだわ。わたしはずっと、「それよりも」失ってしまうことが怖かったのだから。
裏切られて失ってなお彼女は笑った。おれたちにできることはもうなにもない。彼もまた咳き込むように笑う。百万の星の声の向こうに、もしかしたら帰りたいと今では思えない自分の姿。戦場。彼女は顔を上げる。許せ。彼の言葉に彼女は悲しい顔をした。おれも怖かった。あの女を殺したことよりも、その償いに殺されたことよりも、十六人の二年間を失ってしまったことよりも、それよりも。
深い闇の中で戦場とする償いを幸福に思ってしまえることが、怖かったのだ。
手に余る虚しい後悔は寄る辺をなくし、彼女は失い、彼は幸福に絶望する。それが運命だというのならば。
「許せ」
五指の砕けた桑田のてのひらに三十の銀を誰が乗せずとも。





後夜祭
桑田とむくろ
はじめに
・ダンガンロンパ他二次創作ブログ「斑(Buchi)」
・短文のみ

注意事項
・内輪でこっそり

傾向
・姉妹愛
・オタクとギャンブラー
・占い師とスイマー
・野球と軍人
・ノマが好き

他ジャンル
・スタイリッシュ戦国アクション
・日朝8時半(高音愛/ピンクっぽい3人)


・リンクは同士様のみご自由に

なかのひと
・女子に指輪と手ブラをプレゼントするのが趣味
・超次元サッカーも趣味
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