忍者ブログ
ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
[9] [8] [7] [6] [5] [4] [3] [2]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ナイフもフォークもあまつさえ手指を用いることすらせず、豪奢な卓も糊の効いたクロスも空の皿すらなかったが、その場が晩餐の場であったことを何故かふたりとも知っていた。そうしてそれが終わってしまったことも。びろうどの闇にほのかに透明な、その頬は月を切り抜いたように冴え冴えと冷たい。わたくし。彼女は言う。本当はこうなればいいとずっと思っていましたのよ。はい?彼は首をかしげる。彼女はどこか遠くをじっと見たまま、塑像のように動かない。苗木くんはわたくしに薔薇の花をくれましたの。唐突な言葉に、彼は肉に埋もれた目を数度またたかせる。かわいらしい指輪や素敵な香水も、苗木くんはわたくしにプレゼントしてくれましたわ。彼女が見ている方に視線を向けてみても、ただ空虚な闇が漂うばかりだ。晩餐の終わったその場所では、時間ばかりが奇妙にあおく澄んでいる。
最初にここに来たのは彼だった。なにも叶わなかった世界に落胆はしない。ただし心のどこかで火のように願っていたことが、やはり火のように踏みにじられたことは虚しかった。彼女もまた、彼の後を追うようにここに来てしまったから。静かですわね。彼女はぽつりと無感動に言い、彼は言うべき言葉をなくして戸惑った。どちらでも構わないと思って、どちらをすることもできなかった。彼女を惨めに恨むことも。なぜ来てしまったと惨めに泣くことも。ぼくを笑いますか。彼は眼鏡をかけ直しながら問いかける。いいえ。そして彼がなにも言わないうちから、彼女はきっぱりとそう答える。わたくし、本当はこうなればいいとずっと思っていましたの。だから、わたくしはあなたに決して詫びたりしませんわ。彼は彼女を伺う。透明なしろい頬。後悔はしていないと彼も気づいていた。願いは、だから叶わなかった。
苗木くんはわたくしをここへ連れてきましたの。わたくしたちのことをとても哀れんでいましたわ。彼女はそれがまるで遠い昔のお伽の国で起きたことのように、淡々と静かに言葉を重ねた。苗木くんたちがわたくしたちをいかに哀れんでくださっても、彼らもまた死の行進の渦中にいることに変わりはありません。たとえ今はなにも見えなかったとしても、わたくしたちは皆絶望に追われるレミングスだったのですから。ただ。彼女はそこで言葉を切り、彼を横目で見た。わたくし、言葉が過ぎますこと?彼は首を振る。とんでもありませんぞ。残機ゼロでティウンティウンした我々には、時間だけはたくさんありますからな。彼女はそっと唇をほころばせて、かすかに笑ったような気配を漂わせた。いつの間にか晩餐も終わってしまいましたわ。彼は口をつぐんで頷いた。確かにそれが彼らのために用意された食事であったことを、不思議とふたりにはわかっていた。
終わってしまいましたな。無意味なような彼の呟きに、今度は彼女が頷いた。苗木くんたちはわたくしに、わたくしのための死をプレゼントしてくださったのだけれど。彼女は豊かな巻き髪を揺らして彼に向き直る。だけど、あの中の誰も、わたくしのために紅茶を淹れてはくれませんでしたわ。彼は一瞬言葉を詰まらせ、それから、崩れるようにだらしなく笑った。晩餐は終わり、死の行進は止まず、哀れなレミングスは力尽き、彼女は生まれ変わってもマリー・アントワネットになれるはずもなかった。そんなことはわかっていた。それでも。それでも。安広多恵子殿は、ロイヤルミルクティーをご所望でしたかな。驚くほど穏やかに彼は言い、その言葉に彼女はこぼれるようにほほえんだ。終わってしまったことならば、振り返る必要もない。後悔もなければ、願いも望みもない世界で。
あら。彼女は驚いたような声をあげた。その華奢な指が空を指す。山田くん、見て。彗星が流れていきますわ。ああ、と彼は感嘆の声をこぼす。まるで時が見えるようですな。









晩餐後
山田とセレス
PR
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
まづ
性別:
女性
自己紹介:
論破されたい。
adolf_hitlar * hotmail/com (*=@)
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright (c) All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]