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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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『申し上げます
  申し上げます
    旦那様』



それよりも失ってしまうことが怖いのだからと彼女は言った。口癖のように。手に余る虚しい後悔の根元は満ち足りたあの女の死で、償うことに異論はない。命の天秤の反対は命でしか釣り合わないのだから。汚れた指先が最後に擦ったのは自分の名前だという。馬鹿みたいだ。彼の目の前の空の椅子にはどこまでも重たい沈黙が座っている。(あいつらも)彼は思う。(いずれここに来るだろうか)
そのときの甘美な絶望を、彼らは彼女らはどんな顔をして享受するのだろうと思う。百万の星の声を聴くようなあの甘美な絶望を。それよりも失ってしまうことが怖いのだからと、逃げるように遠くの戦地に赴く彼女は言った。あなたも思い出したの。と。わたしはあの子を愛していた、と。彼は笑う。今さらではないか。おれたちの二年間を、この女はどこに置いてきたつもりになっているのだろう。
痛かった?彼女は言う。痛かった。彼は答える。彼の前の空の椅子にはいつの間にか絶望がうずくまっていた。その華奢な背中からはいくつもいくつも墓標のように槍が聳えている。血に染まる狼の夜。彼は思わず自分の顔を指でなぞった。たちまち後悔する。人のからだとも思えないおぞましい感触。彼を包むのは千の白球に蹂躙されたもろい肉体だけだと知る。命の天秤の反対に乗せられた、それは運命ですらあった。
例えばそれが三割しか当たらない占いの答えであっても、その三割を課せられたのならば、あの女がその汚れた指先でなにを思ってその名を書いたのかを、そのときの感情のすべてを、幸福に思ってもよかった。憎んでくれたらいい。彼女は肩を震わせた。わたしたちいつかきっとこうなるべきだったんだわ。わたしはずっと、「それよりも」失ってしまうことが怖かったのだから。
裏切られて失ってなお彼女は笑った。おれたちにできることはもうなにもない。彼もまた咳き込むように笑う。百万の星の声の向こうに、もしかしたら帰りたいと今では思えない自分の姿。戦場。彼女は顔を上げる。許せ。彼の言葉に彼女は悲しい顔をした。おれも怖かった。あの女を殺したことよりも、その償いに殺されたことよりも、十六人の二年間を失ってしまったことよりも、それよりも。
深い闇の中で戦場とする償いを幸福に思ってしまえることが、怖かったのだ。
手に余る虚しい後悔は寄る辺をなくし、彼女は失い、彼は幸福に絶望する。それが運命だというのならば。
「許せ」
五指の砕けた桑田のてのひらに三十の銀を誰が乗せずとも。





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