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ダンガンロンパ他二次創作ブログ。 ごった煮で姉妹とか男女とか愛。 pixivID:6468073
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ナイフもフォークもあまつさえ手指を用いることすらせず、豪奢な卓も糊の効いたクロスも空の皿すらなかったが、その場が晩餐の場であったことを何故かふたりとも知っていた。そうしてそれが終わってしまったことも。びろうどの闇にほのかに透明な、その頬は月を切り抜いたように冴え冴えと冷たい。わたくし。彼女は言う。本当はこうなればいいとずっと思っていましたのよ。はい?彼は首をかしげる。彼女はどこか遠くをじっと見たまま、塑像のように動かない。苗木くんはわたくしに薔薇の花をくれましたの。唐突な言葉に、彼は肉に埋もれた目を数度またたかせる。かわいらしい指輪や素敵な香水も、苗木くんはわたくしにプレゼントしてくれましたわ。彼女が見ている方に視線を向けてみても、ただ空虚な闇が漂うばかりだ。晩餐の終わったその場所では、時間ばかりが奇妙にあおく澄んでいる。
最初にここに来たのは彼だった。なにも叶わなかった世界に落胆はしない。ただし心のどこかで火のように願っていたことが、やはり火のように踏みにじられたことは虚しかった。彼女もまた、彼の後を追うようにここに来てしまったから。静かですわね。彼女はぽつりと無感動に言い、彼は言うべき言葉をなくして戸惑った。どちらでも構わないと思って、どちらをすることもできなかった。彼女を惨めに恨むことも。なぜ来てしまったと惨めに泣くことも。ぼくを笑いますか。彼は眼鏡をかけ直しながら問いかける。いいえ。そして彼がなにも言わないうちから、彼女はきっぱりとそう答える。わたくし、本当はこうなればいいとずっと思っていましたの。だから、わたくしはあなたに決して詫びたりしませんわ。彼は彼女を伺う。透明なしろい頬。後悔はしていないと彼も気づいていた。願いは、だから叶わなかった。
苗木くんはわたくしをここへ連れてきましたの。わたくしたちのことをとても哀れんでいましたわ。彼女はそれがまるで遠い昔のお伽の国で起きたことのように、淡々と静かに言葉を重ねた。苗木くんたちがわたくしたちをいかに哀れんでくださっても、彼らもまた死の行進の渦中にいることに変わりはありません。たとえ今はなにも見えなかったとしても、わたくしたちは皆絶望に追われるレミングスだったのですから。ただ。彼女はそこで言葉を切り、彼を横目で見た。わたくし、言葉が過ぎますこと?彼は首を振る。とんでもありませんぞ。残機ゼロでティウンティウンした我々には、時間だけはたくさんありますからな。彼女はそっと唇をほころばせて、かすかに笑ったような気配を漂わせた。いつの間にか晩餐も終わってしまいましたわ。彼は口をつぐんで頷いた。確かにそれが彼らのために用意された食事であったことを、不思議とふたりにはわかっていた。
終わってしまいましたな。無意味なような彼の呟きに、今度は彼女が頷いた。苗木くんたちはわたくしに、わたくしのための死をプレゼントしてくださったのだけれど。彼女は豊かな巻き髪を揺らして彼に向き直る。だけど、あの中の誰も、わたくしのために紅茶を淹れてはくれませんでしたわ。彼は一瞬言葉を詰まらせ、それから、崩れるようにだらしなく笑った。晩餐は終わり、死の行進は止まず、哀れなレミングスは力尽き、彼女は生まれ変わってもマリー・アントワネットになれるはずもなかった。そんなことはわかっていた。それでも。それでも。安広多恵子殿は、ロイヤルミルクティーをご所望でしたかな。驚くほど穏やかに彼は言い、その言葉に彼女はこぼれるようにほほえんだ。終わってしまったことならば、振り返る必要もない。後悔もなければ、願いも望みもない世界で。
あら。彼女は驚いたような声をあげた。その華奢な指が空を指す。山田くん、見て。彗星が流れていきますわ。ああ、と彼は感嘆の声をこぼす。まるで時が見えるようですな。









晩餐後
山田とセレス
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『申し上げます
  申し上げます
    旦那様』



それよりも失ってしまうことが怖いのだからと彼女は言った。口癖のように。手に余る虚しい後悔の根元は満ち足りたあの女の死で、償うことに異論はない。命の天秤の反対は命でしか釣り合わないのだから。汚れた指先が最後に擦ったのは自分の名前だという。馬鹿みたいだ。彼の目の前の空の椅子にはどこまでも重たい沈黙が座っている。(あいつらも)彼は思う。(いずれここに来るだろうか)
そのときの甘美な絶望を、彼らは彼女らはどんな顔をして享受するのだろうと思う。百万の星の声を聴くようなあの甘美な絶望を。それよりも失ってしまうことが怖いのだからと、逃げるように遠くの戦地に赴く彼女は言った。あなたも思い出したの。と。わたしはあの子を愛していた、と。彼は笑う。今さらではないか。おれたちの二年間を、この女はどこに置いてきたつもりになっているのだろう。
痛かった?彼女は言う。痛かった。彼は答える。彼の前の空の椅子にはいつの間にか絶望がうずくまっていた。その華奢な背中からはいくつもいくつも墓標のように槍が聳えている。血に染まる狼の夜。彼は思わず自分の顔を指でなぞった。たちまち後悔する。人のからだとも思えないおぞましい感触。彼を包むのは千の白球に蹂躙されたもろい肉体だけだと知る。命の天秤の反対に乗せられた、それは運命ですらあった。
例えばそれが三割しか当たらない占いの答えであっても、その三割を課せられたのならば、あの女がその汚れた指先でなにを思ってその名を書いたのかを、そのときの感情のすべてを、幸福に思ってもよかった。憎んでくれたらいい。彼女は肩を震わせた。わたしたちいつかきっとこうなるべきだったんだわ。わたしはずっと、「それよりも」失ってしまうことが怖かったのだから。
裏切られて失ってなお彼女は笑った。おれたちにできることはもうなにもない。彼もまた咳き込むように笑う。百万の星の声の向こうに、もしかしたら帰りたいと今では思えない自分の姿。戦場。彼女は顔を上げる。許せ。彼の言葉に彼女は悲しい顔をした。おれも怖かった。あの女を殺したことよりも、その償いに殺されたことよりも、十六人の二年間を失ってしまったことよりも、それよりも。
深い闇の中で戦場とする償いを幸福に思ってしまえることが、怖かったのだ。
手に余る虚しい後悔は寄る辺をなくし、彼女は失い、彼は幸福に絶望する。それが運命だというのならば。
「許せ」
五指の砕けた桑田のてのひらに三十の銀を誰が乗せずとも。





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